1989年  宝島


ARB

初の海外レコーディングに臨んだARB。
  シドニーのライノセロス・スタジオで
レコーディングされたニュー・アルバムは
   ”時代を予期した”問題作となった!!

自らのバンドスタイルを崩すことなく走りつづけているARB。オリジナル・アルバムとしては通産13枚目のなる新作「SYMPATHY]はオーストラリアのシドニーでレコーディングされた。使用したのはライノセロス・スタジオ。このスタジオはインエクセスやノイズ・ワークスなども使用しているオーストラリアbPのスタジオだ。ARBのレコーディング中、ミッドナイト・オイルも同スタジオでニュー・アルバムのレコーディングを行っていた。今までポリティカルな問題作を数多く発表してきた彼等だが、今回もその姿勢は変わっていない。そしてこのアルバムには衝撃的な歌がいくつか収録された。
奴は20歳を過ぎて仕事にあぶれたまま
テレビゲームだけをただひとつ
慰めにしてた男
ある日話し相手の子供を部屋に入れて
とてもささいな事をなじられて
頭に描いた MURDER GAME
夢と現実の間を
揺れ動いていた昼も夜も
心を開いた事もなく
心をのぞいて見た事もないままに

そしてその日を決めて子供を電話で呼び
まるでゲームのように簡単に
命を奪った BABY FACE
顔色ひとつ変えないまま
奴は抱えられ連れられていく
誰かを信じた事もなく
誰かに信じられた覚えもない
何かを傷つけた事もなく
どこかで痛みを受けたこともない
誰かを愛したこともなく
誰かに愛された覚えもないままに

とても幸せそうな笑顔があふれている
都会の死角で今日もまた
くり返されていく MUDER GAME
この歌は’89年春、麹町で起こったテレビゲームマニアの青年が近所の遊び相手の子供を部屋に呼び、殺害してしまった事件をモチーフにして作られた歌だ。
すぐに分かると思うが”テレビゲーム”を”ビデオ”に置き換えたら、連続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤と見事にオーバー・ラップしてしまう。もちろんこの歌がレコーディングされた時はこの事件の真相は発覚してなかった。昔から言われてきたことだがARBは”時代を予期するバンド”だと感じてしまう。過去にも「バッド・ニュース」を発表後、光州事件が起こったり、「トラブルド・キッズ」の発表直後、横浜で少年達が浮浪者を殴り殺してしまう事件が起こったり・・・・・。
やはりARBの歌う視点はいつも社会の一番危険な部分を直視しているからだろう。オーストラリアのレコーディング現場を訪れた時、白浜久が話した言葉がとても印象に残っている。
「社会に起こっていることで不安材料なんていっぱいあるわけ。そのことを全部歌で提示する必要はないと思う。新聞の三面記事見ればわかるもん。ただボク達がそういうものをテーマにする時は、新聞やテレビや小説よりもリアルに表現する事が出来るかもしれないと思った時だね。『マーダー・ゲーム』はいわゆる一つの事件っていうものを題材にしている。一つの状況というか。この曲をアルバムに入れたというのは、こういう時代の中で衝動本能みたいなものが、何かのキッカケで理性とか社会性をブチ破って出てしまう時がある訳でしょ。例えば一柳展也(金属バットで両親を殺害した事件)にしてもそうだし。そういったものはどの時代にもある。近代社会の中で必ず起こる問題ですよ。これは全く一つの事件。でも、すごく狭い範囲の中で普通のものであれば作品として出す価値があると思うんですよ。この曲はボク達にもその危険性はあるかもしれないし」
もちろんこの話を聞いた時は宮崎勤の事件は発覚していなかった。そして、この曲には不思議なエピソードがあった。一つはこの曲のゲストとしてオーストラリアの若手bPバンド、ブーム・クラッシュ・オペラのキーボード、グレッグとゴンドワナランドというバンドのチャーリーが参加している。ゴンドワナランドはミッドナイト・オイルとツアーを行ったり、ちょうどボク等がいる時にはザ・ザのブリースベンでのライヴのオープニングアウトを努めた、オーストラリアでは有名なバンドだ。リーダーであるチャーリーの奏でる楽器というのがディジュリドゥーというアボリジニーの民族楽器だ。この楽器は風の音、雨の音、鳥や犬などの鳴き声やカンガルーの走る音など再生することが出来る不思議なものだ。言うならば”太古のシンセサイザー”だ。一見、尺八のオバケのようだ。現在、白人ではディジュリドゥーの第一人者である(チャーリーのことに関して今回は詳しく記さないが、彼との出会いはARBにとって凄く大きかったと感じる。実は石橋凌とボクたちはこの後チャーリーのおかげで不思議な素敵な体験をしたのである。それの詳しい事は次号で話すことにする)。初めはこの曲のオープニングの所に不思議な音とギターソロの所に犬の鳴き声を入れた。歌の内容を説明していくうちにチャーリーはエンディングの部分に”子供の泣き声”を入れてもらうことになった。この時のことを石橋凌はこう話してくれた。
「チャーリーに子供の泣き声を入れてもらって、それを聴いた時は、本当感動して涙が出そうだった。あの曲はあれがなかったら完成しなかったかもしれない。」
聴いてもらえば分かると思うが、この”子供の泣き声”によってこの曲は恐ろしいまでのリアルな臨場感を生んでいる。
 もう一つはヴォーカルのテイクを何本かとったのだが石橋自身今一つ納得出来るものがとれないでいた。しかし、白浜やスタッフ達には非常に気に入ったテイクがあった。そのテイクは怒りや悲しみを包容した迫力のあるものだった。そのテイクでほとんどOKの状態だったのだが、石橋自身は納得がいかなかった。理由を聞いてみると、そのテイクというのは声の調子がよくなく、途中で止めようと思ったらしい。歌っていくうちに声が思うように出ない自分に怒りながら歌ったものらしい。つまり偶然の産物なのだ。この話し合いを聞いていた時、まさに石橋凌というのは感情がストレートに声に表れてしまうヴォーカリストだと感じた。もっとも、だからこそARBの歌は3分間のロックの中にリアルなドラマを感じるのだろう。彼は偶然で生まれたものはどうも納得いかないらしい。それはもう一度再生することが出来るかどうか分からないからだ。自分の中で自信のあるものでなくは提示したくないのだろう。しばらく話し合った後、もう一度とることになった。そのテイクは今までの中でも一番いいものだった。怒りや悲しみを包容した迫力ある素晴らしいテイクだった。スタッフ一同驚いた。おそらく石橋自身、この曲のヴィジョンを再確認し、ある種の答えが見えてきたのだろう。
 そしてもう一つは、日本に帰って来てこの曲の最後の仕上げを終え完成した日が8月10日だった。そう宮崎勤が自供した日だ。あまりの偶然にスタジオにいたボク達は驚くだけであった。
 断っておきたいのは”ARBは時代を予期するバンドだ”といいたいのではない。彼等自身もそんなレッテルを貼られるのは迷惑だろう。ようするにARBは、時代を予期しているのではなく、時代と共に走り続けているということだ。それは流行に迎合するのではなく、常に自分たちのスタンスで現実を見ているからだろう。だからリアルなのだ。今回のアルバムを聴いているとそのことを実感する。アルバムに入っている曲の内容は非常にヘヴィーでリアルなものが多い。しかしこれらの曲のどれもが非常に自然に入ってくる。
この歌は止まらない
この歌は止められやしない
アイツ等がたとえ俺を縛りつけてみたところで
俺は俺の自由の為に
君は君の世界の為に
この歌は止まらない
もう誰にも止められやしない

この旗は染まらない
どんな色にも染まらない
どこかでたとえ急に風向きが変わり始めても
右も左も 上も下もなく
人は自分の為に生きる
この旗は染まらない
もうどんな色にも染まらない

(抵抗の詩)

「MURDER GAME」と同じく印象に残った曲だ。これはアパルトヘイト、天安門事件、そしてエストニア、リトアニア沿バルト三共和国の民族運動などがオーバーシップする。しかし、この曲は、今までのARB自身のことを歌っているように思えてならない。
「今回オーストラリアを選んだっていうのは、オーストラリアのミュージシャンが精神的にも音楽的にも凄い面白いところにきてる。またいい音をとりたいっていうのが第一目標でね。もう一つは逃げじゃなくて、自分自身の解放感みたいなものを求めた。ある部分ではストリートを歌ってきたのが自分達の中で何ら活性化していない。例えば”旅を続ける”とか”走り続ける”とか”歌い続ける”っていう言葉が、どっかでもう淀んでしまったというか、自分のなかで。何か違う方法はないのかなって。NHKのドラマやったりいくつかの映画に参加してみたり、あと自分に子供が出来た事とか全部ひっくるめて、自分の中で何か道が見つかったみたいな。だからARB今いる位置っていうのは大体分かってるし、日本の状況も分かってる。そこを捨てるつもりはないし、多分とりあえずはこのまま続けていくだろうし。でもワールド・ワイドに考えた時、何か精神的に楽になるっていうか・・・・・レコード・セールスとかホールの大きさとか量的なことでやっていきたくない。やっていくことは同じなのかもしれないけど目指す道が今までとは違うものが見えてきたんだ」
と石橋凌は話してくれた。彼の言う今までとは違う道の行き着く所はわからない。彼自身も言葉で上手く具体的に説明出来なかった。しかし、その道は今回のアルバムの中に答えがあるように思える。
誰もがそれぞれに理想を求め
遠い道を捜し続けていく
いつの日か歩き疲れた頃に
立ちはだかる壁にもたれかかり
自分の中の自分に語りかけてく
明日を夢見ながら祈る

(NO EASY ROAD)

まだまだARBの旅は続くだろう。日本のミュージシャンが今まで通った事のない”NO EASY ROAD”を走って・・・・・・・・・。




不思議な体験

  • ブッシュ(森、山、山林)で育ったチャーリーは16歳のとき爆発事故で右手を飛ばされ、現在は鈎爪を付けて楽器を奏でている。
  • 凌たちはチャーリーとブッシュへキャンプへいく。
チャーリー「ブッシュの中には目に見えない何かがいるんだよ。精霊みたいなものを感じるんだ。」
  • 巨大な虹をみる。
凌 「なんでここへいるんだろう。だってもしARBへの誘いの電話がなかったら・・・。」
凌 「チャーリーと出会って・・・。不思議だよね。偶然じゃないみたいな。」
凌 「ツアーやレコードのことで凄く悩んだ・・・。偶然っていうのは絶対にない・・・。」
  • チャーリーの音と大地の音がシンクロして不思議な音が生まれる。まさに"言霊"だった。凌は「"言葉の魂"だ!」と言った。
凌 「MURDER GAMEは日本での本当の話なんだ。これは奇妙でバカげたストーリーなんだ。」
チャーリー「本当に日本ではそんなマーダーゲームをやっているのかい!?みんな働きすぎる前にリラックスしなきゃダメだよ。」
凌は流暢な英語でチャーリーと話していた。話が途切れた凌は突然"アフター’45"を歌い始めた。チャーリーも演奏する。凌の声とチャーリーの音色は一体化し、まさに大地の声となって響いている。風の音、木が揺れる音、あらゆる音が一体化している。僕達の周りは不思議な空間に包まれた。まるで森の精霊が凌とチャーリーの二人だけのコンサートを見守ってるかのように。
続いて、”SOUL TO SOUL”も歌った。
凌 「ARBのこれからのテーマは解放だ。」
スタッフ「凌さん、ブッシュに行った時、なにかが周りにいるような感じがしませんでしたか?」
凌 「いたね・・・。」

Special Thanks  thee miffy city rollersさん